商品分類ごとによる服づくりの考え方、求められるスキルの違いと課題
アパレル業界において「デザイナー」「パタンナー」という肩書きがあり、業界の外の人間から見れば、一括りに洋服のデザインをする人、型紙を引いて洋服の構造を考える人と思われるが、この表現について、とある側面から見ると実は全く異なる複数の職能を一つの言葉で束ねているという事実である。
たとえば、Woven(織物)のテーラードジャケットを20年作り続けてきたパタンナーに、「来季はニットのスポーツウェアも担当してほしい」と言うのは、外科医に「消化器もやってほしい」と言うレベルに近しい。洋服のカテゴリそれぞれに固有のボキャブラリー、道具立て、思考回路があり、同じ洋服の括りでもかなり違う。
素材構造の違いが設計思想を変える
最初の大きな分岐は、素材構造にある。Woven、Cut & Sewn(カットソー)、Knitは、すべて「服」でありながら、設計時に見るべき論点が根本的に異なる。
Wovenはシルエット、構築性、ドレープ、仕立ての論理が重要になる。Cut & Sewn(カットソー)は伸縮性、縫製効率、着心地、生産バランスとの関係が深い。ニットは特に特殊だ。デザインと製法が不可分で、型紙という概念自体が存在しないケースもある。
加えて通常の編んでからパーツを繋げるタイプのニットと、近年生まれてきた継ぎ目がないホールガーメントの違いで編み機の調達や特性も異なる。「どう見せるか」と「どう編むか」が同時に設計される必要があり、Woven出身のパタンナーには根本的な思考の切り替えが求められる。
ジェンダーによる違いが生む設計思想の差
素材構造だけでなく、誰に向けた商品かという前提も、服づくりの考え方を大きく変える。特にウィメンズ、メンズ、キッズでは、求められる判断基準も、必要な知識の積み重ねも大きく異なる。
ウィメンズは、トレンド性の強さが前提になることが多い。毎年、形や色の変化が大きく、シルエットや素材感、ディテールの見せ方まで含めて、時流の変化を敏感に捉える必要がある。そのため、単に服を設計するだけでなく、「今シーズンに何が新しく見えるか」「ブランドらしさと市場性をどう両立するか」といった視点が強く求められる。
一方でメンズ商品は、毎年すべてが大きく変わるわけではない。定番性の高いアイテムが多いぶん、重要になるのはトレンドの潮目を正しく捉えることと、アソートメントを適切に揃えることだ。どこを変えて、どこを変えないのか。シーズン全体の中で何を主役にし、何を継続させるのか。メンズでは、その微差の判断が売れ行きやブランドの安定感に直結する。
キッズ商品になると、さらに別の知識が必要になる。新生児向け、乳児向け、ボーイズ、ガールズといった違いに加え、年齢によって求められる仕様や見せ方も少しずつ変化する。着脱のしやすさ、安全性、肌当たり、動きやすさといった機能面はもちろん、成長段階ごとのサイズ感や親の購買視点まで理解して設計する必要がある。
カテゴリ × 用途で専門性はさらに細分化する
アウター、ボトムス、インナー、スポーツ、ラウンジ、オケージョン商品など、カテゴリや用途によって重視すべき論点はさらに変わる。スポーツ商品であれば運動量や素材性能が重要になり、ファッションアウターであれば構築性や見え方が優先される。ラウンジ商品であれば柔らかさや許容度、日常性の設計が中心になる。
つまり、同じ「デザイナー」や「パタンナー」という肩書きで括られていても、実際には全く異なる職能を持った人々が並存しているということだ。その差は表面的なものではなく、構造的な違いである。
標準化を阻む五つの構造的障壁
こうした違いを無視すると、標準化は必ず失敗する。人が感情的にシステムを嫌うからではない。仕事そのものが均質ではないからだ。
これらの障壁は、ツールを導入するだけでは解決しない。むしろ安易にPLMの提案を受け入れて導入したブランドがシステムとは別に個別エクセルを山のようにつくってしまうのは、この構造を正しく捉えられていないからだ。
具体的には、商品タイプごとに語彙が違うこと、必要な情報粒度が違うこと、ベテランの判断が暗黙知として残ること、チームごとにレビューのリズムが違うこと、そして例外対応が「例外」ではなく日常的に発生すること。この五つが、標準化を難しくしている。
解決の方向性:「強制的な統一」より「接続可能な柔軟性」
標準化の理想形は、全員が同じプロセスで動くことではない。異なる専門性・異なる経歴を持つ人々が、「同じ場所に情報を置く」ことで意図せず協働できる状態をつくることだ。
そのためには、柔軟性を持たせたテンプレート化と標準化が必要になる。ただし、情報管理スキームは商品分類別に分かれていなければならない。Wovenのテーラードジャケットとニットセーターを、一つの汎用テンプレートに無理やり押し込めても、使えないか、使われないかになるだけだ。共通の背骨を持ちながらも、商品タイプごとに必要な粒度と語彙を保てる構造が必要になる。
また、どうしても標準化し切れない領域は残る。その領域をシステムの外に放置し続けるのではなく、AI支援を使いながらデジタルデータとして管理し切る方向性を持つべきだ。判断ログ、補足コメント、例外処理の経緯まで、検索可能で再利用可能なデータとして残せる状態に変えていく必要がある。
そしてここで重要なのが、Atellioの考え方でもある「現場の服づくり業務に合わせてデータを生み出していく」という方向性だ。デザイナーやパタンナーが、データ入力のために仕事を止めるのではなく、服づくりの流れの中で自然にデータが立ち上がる状態をつくること。それが、無理のない標準化と接続可能な柔軟性の両立につながる。