デザイナーがPLM導入のメリットを感じにくい、本当の理由
PLM導入がデザインデスクで失敗する理由
PLMを導入しても、デザイナーに使ってもらえない。このような悩みを抱える企業は少なくない。IT部門やオペレーション部門が導入を主導し、相応のコストをかけてシステムを立ち上げた。それでもデザイナーたちの入力は遅れがちで、データは常に不完全なまま、結局「旧来のやり方」に戻ってしまう。
原因はデザイナーのリテラシーや意識の低さではない。構造的な問題だ。
1. 利害が一致しない ― データを入れる人と使う人が違う
PLM活用が進まない最大の理由は、シンプルだ。データを入力する人と、そのデータから恩恵を受ける人が、一致していない。
デザイナーがタイムリーに情報を入力しようと、しなくても、デザイナー自身の目の前の業務は回る。デザイナーが入力したデータを主に利用するのは、いわゆるダウンストリームの人々だ。パタンナー、工場、マーケティング担当。デザイナーがPLMに整然と情報を入力しなくても、チャットや口頭で仕事は「なんとか」回ってしまう。入力のメリットが自分に返ってこないこと、これが根本的な理由である。
2. そもそもPLMは、デザイナーの仕事に合わせて設計されていない
既存のPLMは、ファッションデザイナーの「仕事の振る舞い」に沿って設計されていない。PLMの起源は製造業にある。機械や部品を扱うソフトウェアは、本質的には情報の整理・管理に主眼が置かれている。
デザイナーにとって、PLMへのデータ入力は「本来の仕事」ではなく、「本来の仕事の後に発生する別の作業」として存在している。これでは、どれだけ機能が充実していても、使う側の心理的ハードルは下がらない。
3. ベンダーの「ROI論法」の罠
ベンダーは導入の説得材料としてROIを持ち出す。「リードタイムが40%短縮できる」といった数字が使われるが、ツールを導入しただけで劇的に縮まることはない。そのデータを正しく運用できる体制があって初めて効果が生まれる。
さらに、部分的なスコープで導入しても、部分最適にしかならない。デザイン部門の作業が短縮されても、全体のタイムトゥマーケットが縮まるわけではない。全体の流れの中では誤差の範囲に収まってしまうことが多い。
4. では、何が変わればデザイナーはメリットを感じるのか
まず、データ入力をデザイナーの通常業務に自然に組み込むこと。日常の行為がそのままデータになる仕組みであれば、「入力する」という意識なく情報が蓄積されていく。
次に、入力したデータがデザイナー自身に即座に価値をもたらすこと。月並みではあるが過去の情報が何らかの形で次シーズンのデザインや仕様として反映される有益な情報の使われ方がPLM上で行われたり、素材の組み合わせがサジェストされ、コスト感が瞬時にわかる。データを入れることで、次の仕事が速くなる。このサイクルがあれば、PLMは真の価値を発揮する。
データを管理するだけではないシステムになる事
原因はデザイナーの怠慢でも、システムの機能不足でもない。構造的な利害の不一致と、設計思想のズレにある。情報を管理することを目的にしたシステムは負担を課すが、仕事を加速することを目的にしたシステムはわかりやすくメリットをもたらす。
デザイナーが服を作ることに集中した結果として、自然にデータが積み上がっていき、将来の仕事にまで還元されていくという仕組みが求められているPLMである。